脱走未遂
今日は大会前の為、部活は練習メニュー「フリー」で行われた。あくまで自由練であって、練習自体がオフな訳ではなかったのだが…。
過ちに気付いたのは横浜の手前で部のMLが届いた時。
―焦った。
「出来るだけ遠くに逃げよう」
なぜだろう、咄嗟にそう思った。練習中で出るはずないと分かっている先輩の携帯を呼び出しながら、自宅が近付くごとに増していく恐怖をねじ伏せ、尚も邁進する私。
どうやって言い訳しよう。
もはや裏切り者だった。
自宅に着いた頃、先輩からのメールが入った。
―覚悟した。
「ちゃんと伝えなかった俺も悪かった。試合頑張ろう。」
―やられた
忙しさを部活のせいにして逃げようとした自分の情けなさ
全てを都合のいいように考えてしまった事への恥ずかしさ
最後まで先輩を信じきれなかった事への申し訳なさ
いろんな思いが一度に襲ってきて、胸が詰まった。
「俺の先輩は、一瞬でも部に背を向けた者にこんな言葉がかけられる人なんだ。」
―誇らしかった。
「甘ったれるな!」そう言われればそれまでだ。
しかし私は、これから先、自分のようなワガママだったり間が抜けていたりする後輩が入ってきても、こんな風に励ましてやれる先輩になりたいと思った。