日本で最も列車本数の少ない地域の1つへ

出雲横田〜備後落合〜東城の区間は、現在では1日3往復と、日本で最も本数の少ない地域の1つとなった。そして、最高級の車窓もまた、得てしてそういった区間に存在するものである。


延命水確保の余韻に浸る間もなく現れる坂根のスイッチバック。3段スイッチバックの2段目区間で最前にはり付きたい気持ちを堪えて車両最後尾に陣取ると、3段目を絶好のポイントで撮影できる。
進行方向右側の席に座れたので、おろちループは落ち着いて座席からの撮影。木次線の新たな観光スポットができた事が喜ばしい反面、これの完成により公共交通機関としての同線の存続理由が無くなってしまった事が、今後の行く末を不安定にしている現実に目を向けざるを得ない。




備後落合では1日1度だけ、三次・新見・木次の各方面への列車が顔を合わせ、各方面に乗り継ぐ人が三つ巴に入り乱れる瞬間がある。
しかし、先月の土砂崩れで三次方面の列車が発着しないこの日、代行バス⇔列車間の乗り継ぎ客の数を把握する作業があり、山あいの無人駅は普段以上の慌しさを見せた。



確認を終えた乗務員は、定刻より2分遅れて新見行き列車を発車させた。


次の道後山駅の少し先の分水嶺まで、25km/h制限区間などを経ながらゆっくりと長い勾配を上っていく。いざ分水嶺を越える時はどんなにすごい越え方をするのかと思いきや、トンネル1つなく、気付いたら斜面を駆け下っていた。
木次線三井野原と言い福塩線の上下と言い、中国地方の鉄道には、それまでエラく頑張った割にはあっさりと峠を越えてしまう場所が多い。峠の前後の流れが共に日本海に注ぐ三井野原はまだしも、上下と道後山に至っては日本海と瀬戸内海を分ける日本の大分水嶺であるはずなのに。



分水嶺東麓の小奴可駅で3人乗ってきた。どうやら駅前の小さな商店で買い物をした人達のようだ。買い物なら、うわざわざ1日3本しかない列車を使ってあんな小さな店に行かずとも、車で東城まで行った方が簡単に揃うのではないか…  と思ったら、うち1人が次の内名で降り、駅裏に2〜3件並ぶ民家の方へ歩いていった。裏手は繁みで、どうやって主要道路に出るのかが見ただけでは分からない。


何となく理由が分かった気がした。



小奴可〜東城は、迫りくる樹林の中、高梁川の支流・成羽川の美しい渓谷を、それこそ水飛沫が見えるほどすぐ真下に見ながら走る。従って、駅周辺以外で民家が見えるような場所は滅多になく、列車に乗りながら渓流下りをしているような、実に爽快な感覚に浸れる。保線作業軽減の為に列車は低速運行を行うし、接近が困難な為か川沿いに釣り客の姿もなく、まさに大自然独り占め状態。
広島市内では「通勤列車」としての役割を果たす芸備線の、もう1つの顔である。