マタギの里

急行もりよしの車両は前面・側面・天井とも広い窓が取り付けられ、秋田の奥座敷の風景をよく堪能できるようになっている。見える限りでは私と5〜6人の中年女性一行が乗っているだけで、後ろの車両も似たような乗客数のようだ。
森吉を過ぎた辺りから、天窓から日差しが入るようになる。丸3日ぶりに青空を見た。それと同時に、頻繁に携帯電話が圏外になり始めた。駅に近付いてもいわゆる“アンテナ0本”ではない全くの圏外を示すなんて場所も少なくない。当然駅前にはそれなりの数の民家がある訳で、彼らは果たして携帯電話などとは無縁の生活をしているのだろうか?
このあと寄ろうとしている阿仁マタギの駅前も、その多分に漏れない圏外地域。電波状態が良好な比立内駅を発車すると同時に車内から打当温泉に電話を入れ、迎えを要請した。


阿仁マタギ駅に着くと、聞いた通り“圏外”であった。このすぐ南は阿仁川(米代川水系)桧木内川(雄物川水系)分水嶺があり、正真正銘の“奥座敷”といえるが、急行停車駅で利用者も少なくないこの駅の整備された広い駅前に送迎車が停まっていた。



この打当温泉マタギの湯、露天・サウナ付きで500円以下で日帰り入浴できるのはなかなか有難い。露天からは阿仁川上流域のせせらぎと山の緑が、圧迫感のない距離をおいて見える。対岸の小径にごく稀に軽トラックが走っていたりするのが実に農村らしい風景だ。
温泉併設の資料館には、受け継がれてきた熊狩りの技・道具・生活文化が展示・紹介されていた。中学の時なにげなく本で読んで微妙に興味持ったあのマタギの里に今来ているんだと実感できる。